介護弁護士コラム

第6回介護弁護士コラム 身体拘束廃止未実施減算とは何か

前回のコラムでは、虐待防止措置未実施減算について解説しましたが、虐待と同様に介護業界で頻繁に問題となるのが身体拘束。身体拘束は、利用者の方の自由を奪う行為であり、本来、ゼロにするのが理想なのは当然ですが、実際の現場では、利用者の方の安全を確保するために、やむを得ず行われるケースも少なくありません。今回のコラムでは、身体拘束廃止未実施減算とは何かについて、解説したいと思います。

身体拘束廃止未実施減算とは

身体拘束廃止未実施減算とは、事業所において、身体拘束等の適正化へ向けた要件を満たさない場合には、基本報酬が減算される制度となります。

前回のコラムで解説した虐待防止措置未実施減算と同様に、事業所において、必要とされる取り組みを行っていない場合には、基本報酬が減額されるという制度です。

特定施設入居者生活介護、認知症対応型共同生活介護、(地域密着型)介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護医療院、短期入所生活介護、短期入所療養介護、小規模多機能型居宅介護、看護小規模多機能型居宅介護等の事業所には、身体拘束廃止未実施減算が適用されます。

ただし、短期入所生活介護、短期入所療養介護、小規模多機能型居宅介護、看護小規模多機能型介護については、義務化自体はされていますが、令和7年4月1日から減算の対象となります。

 

身体拘束廃止未実施減算の単位数

身体拘束廃止未実施減算の単位数は、所定単位数の100分の1に相当する単位数が減算されます。つまり所定単位数の1%が減算されます。ただし、介護老人福祉施設、介護老人保健施設等の従前から減算対象とされていた形態の施設については、減算割合は1日あたり10%と非常に高い割合の減算なります。

訪問、通所、福祉用具、居宅介護支援については減算の対象ではありませんが、緊急やむを得ない場合の身体拘束について、記録の作成が義務化されました。

 

身体拘束廃止未実施減算の適用要件

身体拘束廃止未実施減算は、身体拘束等の適正化へ向けた要件を満たさない場合に、減算が適用されますが、具体的には、下記の4つの項目を全て実施する必要があります。

1.身体拘束適正化の指針の策定

身体的拘束等の適正化のための指針を整備する必要があります。指針に定めるべき内容としては、下記の7項目になります。

■施設における身体的拘束等の適正化に関する基本的考え方
■身体的拘束等適正化検討委員会その他施設内の組織に関する事項
■身体的拘束等の適正化のための職員研修に関する基本方針
■施設内で発生した身体的拘束等の報告方法等のための方策に関する基本方針
■身体的拘束等発生時の対応に関する基本方針
■入所者等に対する当該指針の閲覧に関する基本方針
■その他身体的拘束等の適正化の推進のために必要な基本方針

2.やむを得ず身体拘束する場合に実施記録を作成

緊急やむを得ない場合に、身体的拘束等を行う場合には、その態様及び時間、その際の入所者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由を記録する必要があります。

当然のことではありますが、記録さえ残せば身体拘束が許されるということではなく、身体拘束は、緊急やむを得ない場合にのみ許される行為となりますので、後に記録を確認したときに、緊急やむを得ない状況であったこと、すなわち、「切迫性」「非代替性」「一時性」の3要件を満たしていたかどうかが客観的に判断できるように記録を残す必要があります。

3.委員会を定期的に開催

身体的拘束等の適正化のための対策を検討する委員会を設置し、定期的に開催する必要があります。委員会は3ヶ月に一回開催する必要があり、その委員会の協議内容や結果については、介護職員その他従業者に周知する必要があります。

委員会は、事業所の管理職員で構成するのが一般的ですが、第三者や法律の専門家をメンバーに加えるケースも少なくありません。

4.定期的な職員・スタッフへの研修

介護職員その他の従業者に対し、身体的拘束等の適正化のための研修を定期的(年2回及び新規採用時)に実施する必要があります。研修の記録を残すことが義務付けられているわけではありませんが、記録を残しておかないと、実際に研修が適切になされているか確認することが困難になってしまうので、しっかりと研修の記録も残しておくことが重要です。

 

おわりに

今回のコラムでは、身体拘束廃止未実施減算とは何かについて、解説しましたが、いかがだったでしょうか。前回のコラムで解説した虐待防止措置未実施減算と身体拘束廃止未実施減算は、どちらも利用者様の生命・身体・自由に関わる重要な制度であり、また、施設運営者にとっても、報酬額の算定に関わるため、しっかりと情報を整理した上で適切な対策を講じていくことが大切です。

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