介護弁護士コラム

第5回介護弁護士コラム 令和6年改定 – 虐待防止措置未実施減算とは

令和6年の介護報酬改定により、虐待防止措置未実施減算という制度が新設されました。今回のコラムでは、虐待防止措置未実施減算とは何か、その概要、対象施設、適用要件等を解説したいと思います。

 

虐待防止措置未実施減算とは

虐待防止措置未実施減算とは、利用者の人権の擁護や虐待防止を強化する観点から、虐待の発生と虐待の再発を防止するための措置が講じられていない場合に、基本報酬を減算する制度となります。

簡単に言うと、虐待防止のための措置を講じていない場合には、基本報酬が減額されますよ、という制度となります。

虐待防止措置未実施減算は、居宅療養管理指導と特定福祉用具販売を除いた全サービスが対象となります。

 

虐待防止措置未実施減算の単位数

虐待防止措置未実施減算の単位数は、各サービスの所定単位数から、その100分の1に相当する単位数が減算されます。つまり所定単位数の1%が減算されます。

虐待防止措置が未実施、つまり、必要な要件を満たしていないことが発覚した場合には、その月の翌月から改善が認められた月までの間が減算の対象期間となります。同期間中は、利用者全員ついて減算が適用されます。

なお、要件を満たしていないことが発覚した後、3ヶ月後に改善計画に基く改善状況を報告することが求められますので、どんなに早く改善策を講じたとしても、最低3ヶ月は減算が適用され続けるということになります。

 

虐待防止措置未実施減算の適用要件

虐待防止措置未実施減算は、虐待防止に必要な措置をとっていない場合に、減算が適用されますが、具体的に何をしていないと減算になるのでしょうか。

下記の4つの算定要件のうち1つでも未実施のものがあると、減算が適用されます。

■虐待防止のための指針の策定
■虐待防止委員会を定期的に開催
■定期的な職員・スタッフへの研修
■虐待防止のための責任者の定め

以下、各要件について詳しく解説します。

 

虐待防止のための指針の策定

介護保険事業所では、事業所が虐待防止に向けてどのように対策を講じていくのか、その方針等を策定する必要があります。障害者福祉施設では、指針の策定は、減算との関係では必須ではありませんが、統一的な意思形成や組織体制作りの観点からは、策定しておくのが望ましいと言えます。

虐待防止のための指針については、当然、施設毎に独自の指針を策定するのですが、下記の8項目については、介護保険法の運営基準解釈通知に規定されているため、指針に盛り込む必要があります。

1.虐待防止に関する基本的考え方
2.虐待防止委員会その他施設内の組織に関する事項
3.虐待防止のための職員研修に関する基本方針
4.虐待等が発生した場合の対応方法に関する基本方針
5.虐待等が発生した場合の相談報告体制
6.成年後見制度の利用支援
7.虐待等に係わる苦情解決方法
8.当該指針の閲覧について

虐待防止委員会を定期的に開催

虐待防止のための委員会を設置し、定期的(年1回以上)に開催しなければなりません。委員会では、虐待防止のための年間計画を作成したり、その進捗報告、虐待やその疑い、あるいは虐待防止未遂案件の報告や改善策の協議などを行います。

委員会を開催した場合には、その協議の内容や協議の結果を全職員に周知する必要があります。

 

定期的な職員・スタッフへの研修

虐待防止の指針で定めた職員研修に関する基本方針に則り、職員・スタッフへの研修を定期的(年2回以上)に行います。研修を行った場合には、役所にも提出できるように研修記録を作成しておきましょう。なお、研修をどのくらいの頻度で行うのかは事業形態で異なりますが、介護施設であれば解釈通知には「研修(年2回以上)を実施するとともに、新規採用時には必ず虐待の防止のための研修を実施することが重要である」と表記されているため、最低でも年2回は行うようにしましょう。

 

■虐待防止のための責任者の定め

虐待防止のための措置等が適切に実施されているか、管理監督するために責任者を決める必要があります。具体的に誰を責任者にすべきかについて、特に資格等の要件はありませんが、管理監督するという職務の性質上、それなりの立場の者が適任と考えられますので、事実上、施設長等が責任者になるのが一般的です。

 

おわりに

今回のコラムでは、虐待防止措置未実施減算とは何か、その概要、対象施設、適用要件等を解説しましたが、いかがだったでしょうか。介護福祉事業においては、定期的な報酬改定はもちろん、様々な制度改定が頻繁になされるため、情報をアップデートし、内容を理解し、事業所運営に適切に反映していくことが重要となります。

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