介護弁護士コラム

第13回介護弁護士コラム 利用者の家族からの暴言・無理な要求 – 介護事業者はどこまで応じる義務があるのか?

「うちの母にもっと丁寧に接してよ」「この職員を外してくれ」。介護の現場で、こうしたご家族からの強い言葉や無理な要求を受けた経験をお持ちの方も多いでしょう。ご家族の思いは大切にしたいものの、あまりに過剰な言動が続くと、職員の心が疲弊し、現場全体の士気にも影響します。では、こうした“家族からの要求”に、介護事業者はどこまで応じる法的な義務があるのでしょうか。

契約の相手はあくまで「利用者本人」

まず、押さえておきたいのは、介護サービスの契約関係です。

契約書をよく見ると、サービスの提供先も、契約の当事者も、原則として「利用者本人」となっています。ご家族は、代理人や保証人として関与することはあっても、法律上の「契約当事者」ではないことがほとんどです。

したがって、家族からの要望や指示に応じる法的な義務は基本的にはありません。介護事業者が法的責任を負うのは、あくまで契約上の義務に基づいて利用者本人に対してサービスを提供することです。

もちろん、本人が認知症などで意思表示が難しい場合は、家族が実質的な代弁者となることもありますが、それでも「家族の言うこと=絶対に従わなければならない」わけではありません。事業者は、本人の利益を中心に考える立場にあります。

顧問弁護士がいれば、この契約関係の整理や、契約書における家族対応の条項の整備を助言してもらえます。たとえば、「ご家族の不当な要求や暴言が続く場合、契約を解除できる可能性がある」と明記しておくことで、現場は安心して毅然と対応できる体制を構築できます。

暴言や威圧的な言動は「ハラスメント」として対応を

近年、介護現場における「利用者家族からのハラスメント」も社会問題として注目されています。
「職員を名指しで批判する」「怒鳴る」「人格を否定する」などの行為は、職員へのハラスメントに該当しうるものです。

職員が精神的に追い詰められ、休職や離職に至った場合、事業者が適切に対応を取らなければ、「安全配慮義務違反」として責任を問われる可能性もあります。つまり、家族のハラスメント行為を放置することは、“職員を守らなかった”という別のリスクにつながる危険性があるのです。

対応の基本は、まず「記録を残すこと」。やり取りを複数名で対応したり、面談内容を文書にしておくことが有効です。必要に応じて、冷静な書面で注意喚起を行うことも検討します。それでも改善が見られない場合には、「今後の対応を制限する」「契約継続が困難」といった判断も、最終的にはあり得ます。毅然とした対応は、決して冷たい対応ではなく、職員と利用者双方を守るために必要な姿勢です。

顧問弁護士がいることで、こうしたケースに備えた「初動対応のマニュアル」作りや、面談時の記録・注意文書の文面チェックを依頼できるのも大きな利点です。法的に問題のない表現で対応方針を伝えることができ、トラブルが大きくなる前に抑えることができます。

「どこまで応じるか」の線引きを明確に

ご家族からの要望には、当然ながら真摯に耳を傾けるべきものもあります。食事内容の改善や、介助方法の相談など、利用者の生活をより良くする建設的な意見であれば、柔軟に対応する余地はあります。

しかし、特定の職員を排除するよう求めたり、施設運営に過度に介入するような要求は、もはや“運営権の侵害”と言えるものです。そのような場合は、「ご意見は伺いましたが、職員配置は施設の判断で行っております」と、丁寧ながらも明確に線を引くことが大切です。そして、人格を否定するような暴言や、脅迫めいた発言がある場合は、職員の安全確保を最優先に、速やかに管理者が対応するようにしましょう。

この“線引き”を現場任せにすると、対応のばらつきや職員間の混乱を招きやすくなります。組織として一貫した基準を持ち、どのレベルの事案なら上司や管理者にエスカレーションするのかを明文化しておくことが、トラブルの拡大防止につながります。

顧問弁護士がいれば、こうした「線引きルール」の整理もサポートしてくれます。現場に任せず、組織として一貫した対応基準を作ることで、職員が安心して業務に集中できるようになります。さらに、必要に応じて家族への対応文書のチェックや法的観点での助言ももらえるため、トラブル対応の自信につながります。

 

契約とマニュアルで「守れる体制」を整える

予防の観点からは、契約書や利用規約の中に、「ご家族等の不当な要求や暴言などが続く場合、やむを得ず契約を解除することがある」といった条項を明記しておくことが有効です。また、苦情対応マニュアルには、「どこまで応じるか」「どの時点で管理者対応に切り替えるか」を明確にしておくと、現場職員が安心して動けます。

こうした仕組みを整えておくことで、個々の職員が“我慢”で乗り切ろうとするのではなく、組織として一体的に対応できる体制を作ることができます。

顧問弁護士を活用し、契約書や規約、マニュアルのチェック・改定を専門家の目で確認してもらうことで、後から「法的に問題があった」というリスクを避けることができます。また、実際にトラブルが起きた際には、文書や記録の作成支援もしてもらえるため、現場の負担も大幅に軽減されます。

おわりに – 毅然とした対応は、誰かを守る行為

ご家族の怒りや不満の裏には、介護への不安や罪悪感が隠れていることもあります。だからこそ、まずは気持ちに寄り添う姿勢が大切です。

しかし、その一方で、暴言や過度な要求にまで応じることは、職員を守らず、結果的には利用者本人のケアにも悪影響を及ぼします。感情ではなく、契約と事実に基づいて判断し、必要な場面では毅然とした対応をとること。それが、介護事業者としての責任であり、利用者と職員の両方を守る最良の方法です。

介護現場では、想定外の家族対応やクレームが日常的に発生します。そのたびに現場で判断を迫られると、職員の負担は大きく、組織全体の運営にも影響します。

当事務所では、こうした現場の悩みに寄り添いながら、契約書や利用規約のチェック、苦情対応マニュアルの整備、トラブル発生時の対応支援まで、幅広くサポートする顧問弁護士サービスを提供しています。

「どこまで対応すべきか迷う」「職員を守りつつ、組織として毅然とした対応を取りたい」といった場合には、顧問弁護士のアドバイスが心強い味方になります。日常的に相談できる体制を整えることで、現場の安心とサービス品質向上につながります。

もしご関心があれば、まずはお気軽にご相談ください。現場の実態に即した、実践的なアドバイスを提供いたします。

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