介護弁護士コラム

第14回介護弁護士コラム 見守りカメラや介護アプリ導入で知っておくべき法律知識

介護現場におけるAI・ICTの導入背景

介護業界では高齢化の進行と慢性的な人手不足が課題となっており、施設運営者にとって効率的かつ安全なケアの提供は喫緊の課題です。この背景の中で、見守りカメラや介護アプリなどのAI・ICT(情報通信技術)の導入は、介護現場の業務効率化や利用者の安全確保に大きく貢献すると期待されています。たとえば、夜間の転倒リスクの監視や服薬管理、日々の健康状態の記録など、人手だけでは対応が難しい部分を技術で補うことが可能です。

しかし、便利な技術であっても、利用者や職員の権利にかかわる法律上の問題を無視して導入すると、思わぬトラブルに発展することがあります。例えば、個人情報の取り扱いや同意取得、AI判断に伴う責任問題は、施設経営者が十分に理解しておく必要があります。本コラムでは、介護施設での見守りカメラや介護アプリの導入に関わる法律的な注意点を整理し、安全で安心な導入のためのポイントをご紹介します。

介護施設で使われる主なAI・ICT機器・サービス

介護現場で導入されるAI・ICTにはさまざまな種類があります。代表的なものとして、まず見守りカメラやセンサーによる安全管理があります。これらは夜間の転倒や徘徊を早期に検知するために活用され、スタッフが常に施設内を巡回する負担を軽減します。また、健康状態や服薬情報を管理するアプリも増えており、利用者の体調変化を記録してケアプランに反映させることができます。さらに、自動記録や業務支援システムは、日々の介護記録の作成や提出を簡略化し、職員の業務効率を高めます。

最近では、データ分析を活用したケアプランの最適化や、AIによる予防介護の提案も行われるようになっています。これにより、施設全体でより質の高い介護を提供できる一方で、個人情報の大量収集やAI判断に関わる法的問題が生じやすくなります。つまり、どのような機器やサービスを導入するかだけでなく、導入に伴う法律上のリスクを正しく理解することが、介護施設の責任者にとって不可欠です。

導入時に注意すべき法律ポイント

個人情報保護

介護施設で利用される見守りカメラやアプリは、利用者の健康情報や日常の行動パターンなど、極めてセンシティブな情報を扱います。個人情報保護法では、こうした情報を収集・利用する際には明確な目的を定め、適切な管理措置を講じることが求められています。また、情報の第三者提供やクラウドへの保存も慎重に検討する必要があります。

▪️利用者や家族に対し、何の目的で情報を収集するかを明示する
▪️情報のアクセス権限を適切に管理し、職員以外が閲覧できないようにする
▪️データをクラウドで管理する場合、事業者の安全管理措置を確認する

利用者・家族の同意取得

見守りカメラや介護アプリの導入は、利用者本人や家族の同意が前提となります。特に認知症の利用者の場合、本人による同意が難しいことがあります。この場合は成年後見制度の活用や、家族と相談のうえでの同意取得が必要です。同意を得ずに撮影や記録を行うと、プライバシー侵害として法的トラブルに発展する可能性があります。

AI・ICTの判断に関する責任問題

AIやICTが提供する情報や提案をもとに介護判断を行った場合、誤った判断によって事故が発生した際の責任の所在も問題となります。たとえば、転倒リスクの見逃しや誤った服薬管理による健康被害が生じた場合、AIの出した結果をそのまま鵜呑みにしていた施設側にも一定の責任が問われる可能性があります。施設はAI判断を補助ツールとして位置づけ、最終的な判断は必ず人間の介護職員が行う体制を整備することが重要です。

職員の監視や労務上の問題

見守りカメラは利用者だけでなく、職員の行動も映像として記録されます。この場合、職員のプライバシーに配慮し、労働基準法や労働契約法に抵触しない範囲での活用が求められます。職員の同意を得ずに常時監視することはハラスメントとして問題視される場合があるため、導入前にルールを明確化する必要があります。

導入前に整備しておきたい実務チェックリスト

安全かつ法律的に問題のない導入のためには、いくつかの準備が欠かせません。まず契約書や利用規約を整備し、何の目的でどのような情報を収集・利用するかを明確にすることが必要です。利用者や家族に対して説明義務を果たすことで、同意の取得とトラブル防止につながります。

また、データ管理体制の構築も不可欠です。誰がどの情報にアクセスできるかを明確にし、アクセスログの管理や定期的なセキュリティチェックを行うことで、情報漏洩リスクを最小化できます。さらに、トラブル発生時の対応フローを事前に整備しておくことで、事故や情報流出が起きた場合でも迅速かつ適切な対応が可能です。

導入前には、弁護士による契約書や利用規約のチェック、データ管理ルールの確認を行うことをおすすめします。特にクラウドサービスの利用やAI分析ツールの導入に際しては、法的リスクを事前に把握しておくことが安全な運用につながります。

安心・安全なICT導入のために

見守りカメラや介護アプリの導入は、介護施設にとって大きな利便性と安全性をもたらす一方で、法律上の注意を怠ると思わぬトラブルに発展する可能性があります。個人情報の取り扱い、利用者や家族の同意、AI判断に関わる責任問題、職員の労務上の配慮など、多角的にリスクを検討する必要があります。

実務上は、契約書や利用規約の明確化、データ管理体制の整備、トラブル対応フローの事前準備、そして専門家による事前チェックが重要です。これにより、施設運営者は法律リスクを最小化し、安心してICT導入を進めることができます。

当事務所では、介護施設向けにAI・ICT導入時の法務チェックや契約書作成、個人情報管理体制のアドバイスなどを行っています。安全かつ効率的なICT導入を目指す施設運営者の方は、ぜひ顧問サービスや個別相談をご活用ください。専門家と連携することで、導入後も安心して施設運営を進めることができます。

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