労基署の調査は「ある日突然」やってくる
「うちは小規模な施設だから関係ない」「大きな問題は起きていないから大丈夫」。
介護施設の経営者や施設長の方から、こうした言葉を聞くことは少なくありません。
しかし実際には、介護施設は労働基準監督署(以下、労基署)の調査が入りやすい業種の一つです。そして多くのケースで、調査は事前予告なく、ある日突然やってきます。
労基署の調査自体は「悪いことをした施設を懲らしめる」ためだけのものではありません。しかし、対応を誤ると、是正勧告や指導にとどまらず、施設運営や職員との関係に大きな影響を及ぼすこともあります。
今回のコラムでは、介護施設に労基署の調査が入る典型的なパターンと、調査が入る前にどのような備えをしておくべきかについて、実務の視点から解説します。
労基署はなぜ介護施設を調査するのか
労基署の役割は、労働基準法をはじめとする労働関係法令が守られているかを確認し、必要に応じて是正を求めることにあります。介護業界は、人手不足、夜勤、シフト制、突発的な残業などが常態化しやすく、労務管理が複雑になりやすい構造を持っています。
そのため、意図せず法令違反が生じてしまうケースも多く、結果として調査対象になりやすいのが実情です。
調査には、定期的に行われるものもあれば、特定のきっかけによって実施される臨時調査もあります。介護施設の場合、後者、つまり「何らかのきっかけ」が原因となるケースが圧倒的に多いのが特徴です。
介護施設に労基署の調査が入る典型パターン
職員からの申告・通報がきっかけになるケース
最も多いのが、職員や元職員からの申告です。
残業代が支払われていない、休憩が取れていない、長時間労働が常態化しているといった内容が、労基署に直接伝えられます。
重要なのは、これが匿名であっても調査は始まるという点です。施設側が「誰が言ったのか分からないから大丈夫」と考えていても、労基署は客観的な資料をもとに調査を進めます。
特に、退職時や休職時に不満が表面化するケースは多く、円満に見えていた人間関係の裏で、労務上の問題が積み重なっていることも珍しくありません。
夜勤・残業代に関する問題が疑われるケース
介護施設では、夜勤や宿直、オンコール対応など、勤務形態が複雑になりがちです。「夜勤は仮眠があるから問題ない」「管理職だから残業代は不要」といった認識が、必ずしも法的に正しいとは限りません。
勤怠記録上は残業がないように見えても、実態として長時間労働が行われていれば、そのズレが調査で指摘されることになります。
就業規則や36協定の不備があるケース
意外に多いのが、就業規則や36協定が形式的にしか整っていないケースです。そもそも届出がされていない、内容が実態と合っていない、古いまま放置されているといった状況は、調査の際に必ずチェックされます。
書類があること自体よりも、「その内容どおりに運用されているか」が重視される点には注意が必要です。
過去の是正勧告を軽視してしまったケース
以前に是正勧告や指導を受けたにもかかわらず、十分な対応をしないままにしていると、再調査につながることがあります。
この場合、労基署の目はより厳しくなり、指摘内容も広範囲に及びやすくなります。
労基署調査では何を見られるのか
調査当日、労基署が重点的に確認するのは、施設の日常的な労務管理の実態です。具体的には、勤怠管理の記録、賃金台帳、給与明細、就業規則、36協定、シフト表などが確認されます。
特に重要なのは、「記録」と「現場の実態」が一致しているかどうかです。帳簿上は適正でも、実際の働き方が異なれば、その点は必ず指摘されます。
調査が入る前に備えておくべきポイント
労基署調査への最大の備えは、特別な対策をすることではありません。日常の労務管理を、法的に見て無理のない形に整えておくことが何より重要です。
勤怠管理については、実態を正確に反映させること、夜勤や宿直の位置づけを曖昧にしないこと、就業規則や36協定を定期的に見直すことが求められます。
また、施設長や管理職がそれぞれ異なる対応をしていると、調査時に説明が食い違い、不要な疑念を招くこともあります。
施設としての対応方針を共有しておくことも、重要な備えの一つです。
労基署調査当日にやってはいけない対応
調査当日、焦って場当たり的な説明をしたり、その場で帳簿を修正したりすることは、かえって状況を悪化させます。また、職員に対して調査について口止めをするような行為は、重大な問題に発展しかねません。
不安を感じた場合は、早い段階で専門家に相談することが、結果的に施設を守ることにつながります。
おわりに
介護施設における労基署調査は、決して特別な施設だけに起こるものではありません。日々の運営の中で生じる小さなズレや思い込みが、ある日突然、表面化するだけなのです。
調査が入ってから慌てるのではなく、調査が入っても問題ない状態を日常的につくっておくことが、最も現実的で確実なリスク管理と言えるでしょう。
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