介護弁護士コラム

第4回介護弁護士コラム 介護事故が起きた際の謝罪 道義的責任と法的責任の違い

介護の現場では、万全を期していたとしても避けられないのが介護事故。万が一、事故が起こってしまった場合には、利用者の方の安全確保、救命・救護措置、救急やご家族、行政等への連絡など対応すべきことは多岐に渡ります。

では、ご家族へ事故の連絡をする際には、謝罪はした方がいいのでしょうか。謝罪をすることにより、施設側の非を認め、法的な責任に結びつくのではないかと、懸念される方も少なくありません。今回のコラムでは、介護事故が起きた際に、謝罪はすべきなのか、道義的責任と法的責任の違いについて解説したいと思います。

謝罪の適否

介護事故が発生した際には、救急や行政等への連絡の他に、ご家族に事故の連絡を行う必要があります。その際に、謝罪をしてしまうと、事業者として責任を認めたことになり、損害賠償等の責任を負うのではないかと不安に思う方も少なくありません。

しかし、道義的な責任を認めて謝罪をすることと、法的な責任を認めることは全く別の問題となりますので、起こってしまった結果に対して、遺憾の意を示し、真摯に謝罪することは問題ありません。

むしろ、適切な謝罪さえしていれば、争いや訴訟に発展することを避けられたというケースも少なくないため、まずは、適切に謝罪を行うというのがリスクマネジメント上、重要と考えます。

道義的責任と法的責任の違い

万が一の介護事故の際には、真摯に謝罪することは重要なのですが、全ての非を認めると、法的責任に結びつく場合がありますので、道義的責任の見地から、適切に謝罪することが大切です。

では、道義的責任と法的責任の違いとは何なのででしょうか。

道義的責任について

道義的責任とは、人としての道理に基づいた行動をすべき責任のことを言います。介護事故という重大な結果が生じてしまった以上、その結果に対して、連絡を行い、お見舞いやお詫び、真摯な謝罪をするのが道義的な責任を果たすということになります。

ポイントは、起きてしまった結果に対して、その原因や責は誰にあるのかは別として、謝罪するということです。

実際、事故が起こった際の連絡の段階では、原因が正確に究明されていないのが通常となりますので、伝えるのは判明している正確な事実に留め、不確かな原因や(法的な)責任について言及することは避けるのが重要です。

法的責任について

介護施設には、契約上(法律上)、利用者の方の安全確保に努めなければならないという安全配慮義務が課せられています。

この安全配慮義務の違反が認められる介護事故の場合には、損害賠償等の法的な責任が生じることになります。

安全配慮義務違反があったとかどうかは、ケースバイケースで判断されることになりますが、一般的に、「事故の発生を予見可能であり、その事故を回避可能であったにもかからわず、回避措置を取らなかった」という場合に安全配慮義務違反があったと判断されます。

逆に言うと、法は、起こってしまった全ての結果に対して責任を問うのではなく、予見できない事故、回避が不可能な事故、適切な回避措置を講じていたにも関わらず生じてしまった事故に関しては、法的な責任は問わないということです。

ですので、仮に謝罪の際に、「施設として本来取るべき措置を講じていなかったため、このような事故が起こってしまい申し訳ありません」と謝罪すると、法的責任を認める謝罪となり得ますが、例えば、「施設として最大限、利用者様の安全を確保する措置を講じていましたが、このような結果になってしまい申し訳ありません」と謝罪すると、道義的責任からの謝罪ということになります。

おわりに

今回のコラムでは、介護事故が起きた際に、謝罪はすべきなのか、道義的責任と法的責任の違いについて解説しましたが、いかがだったでしょうか。介護の現場では、様々な問題が発生しうるリスクがありますので、問題が発生しないように対策を講じるはもちろんのこと、いざ問題が発生した際にどのように対応すべきか、しっかりと認識を共有し、準備しておくことがリスクマネジメント上、重要となります。謝罪一つをとっても、そもそも謝罪していいのかどうか、謝罪する際にはどのように謝罪すべきなのか、法的な観点からもしっかりと事前準備がなされていると、施設全体で意思統一の取れた対応が可能ですし、誠意ある対応によって避けられるリスクも存在します。

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