介護弁護士コラム

第21回介護弁護士コラム 利用者からのクレーム対応と弁護士に相談すべきタイミング

「ご家族が面会に来られるたびに、あれが気に入らない、これが不十分だと言われて困っている」「利用者さんから『あの職員の態度が悪い』とクレームがあったが、どう対応すればいいかわからない」――介護施設を運営されている皆様であれば、このような場面に直面された経験が一度はあるのではないでしょうか。

介護サービスは、利用者やご家族の大切な生活に深く関わるものであるからこそ、些細なことでも不満やクレームにつながりやすいという特徴があります。現場の職員が誠実に対応しているつもりでも、期待値のズレや誤解から、思わぬトラブルに発展してしまうことも少なくありません。初期対応を誤ると、問題がこじれて弁護士が介入する事態になったり、最悪の場合は訴訟に発展したりするケースもあります。

今回のコラムでは、介護施設における利用者・ご家族からのクレーム対応の基本的な考え方と、弁護士に相談すべきタイミングについて解説します。

介護現場で生じやすいクレームのパターン

まずは、介護施設で実際に発生しやすいクレームの典型例を整理してみましょう。クレームの内容を把握しておくことで、予防策や初動対応の準備が可能になります。

サービス内容に関するクレーム

最も多いのが、提供しているサービスの内容や質に関するクレームです。「入浴の回数が少ない」「食事の味が悪い」「居室の清掃が行き届いていない」といった日常的なケアに関するものから、「リハビリの時間が短い」「個別の対応をしてくれない」といった専門的なサービスに関するものまで、多岐にわたります。

これらのクレームの背景には、契約時の説明不足や、利用者・ご家族の期待値と実際のサービス内容とのギャップがあることが多いといえます。介護保険制度の範囲内で提供できるサービスには限界があるにもかかわらず、その点が十分に理解されていないケースも珍しくありません。

職員の対応に関するクレーム

「職員の言葉遣いが乱暴だ」「タメ口で話しかけられた」「呼んでもなかなか来てくれない」など、職員の態度や対応に関するクレームも頻繁に発生します。介護現場は人手不足が深刻で、職員一人ひとりの業務負担が大きくなっていることから、つい対応が雑になってしまったり、言葉遣いが乱れてしまったりすることもあるでしょう。

また、利用者やご家族との信頼関係が十分に築けていない段階で、職員が良かれと思って行った対応が、かえって不快感を与えてしまうといった場面もあります。

事故やケガに関するクレーム

転倒による骨折、誤嚥、褥瘡の発生など、介護事故が発生した際のクレームは、特に慎重な対応が求められます。これらは単なるサービスへの不満にとどまらず、損害賠償請求や訴訟に発展する可能性があるためです。

事故そのものの発生だけでなく、事故後の説明が不十分だったり、施設側の対応が誠実でないと受け取られたりすることで、問題が大きくなっていくケースが多く見受けられます。

クレーム対応を誤るとどうなるか

クレームへの初期対応を誤ると、問題が拡大し、施設運営に深刻な影響を及ぼす可能性があります。具体的にどのようなリスクがあるのか、確認しておきましょう。

信頼関係の破綻と契約解除

適切な対応がなされないと、利用者やご家族との信頼関係が完全に失われ、契約解除を求められることがあります。特に入所系のサービスの場合、急な退所は施設の収益に直接影響するだけでなく、他の利用者やご家族への風評被害も懸念されます。

また、不満を持ったご家族がインターネット上に否定的な口コミを投稿したり、SNSで拡散したりすることで、施設の評判が大きく傷つくリスクもあります。

行政指導や監査のリスク

クレームの内容によっては、利用者やご家族が自治体の窓口に相談し、結果として行政指導や監査の対象となる可能性があります。虐待の疑いがある場合などは特に、行政が積極的に介入してくることが予想されます。

監査の結果、指定取消しや効力停止といった行政処分を受けることになれば、施設の存続そのものが危ぶまれる事態となります。

損害賠償請求や訴訟への発展

事故やケガが伴うケースでは、損害賠償を請求されることがあります。施設側に過失があると認められた場合、治療費や慰謝料、逸失利益などの支払いが必要になる可能性があります。

さらに、当事者間での話し合いがまとまらない場合、民事訴訟に発展することもあります。訴訟対応には多大な時間と費用がかかるだけでなく、精神的な負担も大きく、施設運営に支障をきたすことになりかねません。

クレーム対応の基本的な流れ

では、実際にクレームを受けた際、どのように対応すればよいのでしょうか。基本的な対応の流れを押さえておきましょう。

まずは傾聴し、事実確認を徹底する

クレームを受けた際、最初に大切なのは、相手の話をしっかりと聴くことです。言い訳や反論をする前に、何に対して不満を持っているのか、どのような事実があったのかを丁寧に聴き取りましょう。

その上で、施設内での事実確認を迅速かつ正確に行うことが重要です。関係する職員から話を聞き、記録を確認し、防犯カメラの映像がある場合は確認するなど、客観的な証拠を収集します。この段階での記録の保存や証拠の確保が、後々の対応を左右することもあります。

誠実な説明と適切な謝罪

事実確認の結果、施設側に非があると判断される場合は、速やかに謝罪することが求められます。ただし、法的責任を認める内容の謝罪は慎重に行う必要があります。「ご不快な思いをさせてしまい申し訳ございません」という形で、相手の感情に寄り添う謝罪と、法的責任を認める謝罪は区別して考えるべきです。

また、事実関係や今後の対応について、丁寧に説明することも大切です。説明が不十分だと、「隠している」「誠意がない」と受け取られ、かえって不信感を増幅させてしまう可能性があります。

再発防止策の提示と実行

クレームへの対応として、「今後どのように改善するのか」を具体的に示すことは、信頼回復のために非常に重要です。職員への指導、マニュアルの見直し、研修の実施など、実効性のある再発防止策を検討し、実行に移しましょう。

そして、その後の経過についても適宜報告することで、施設としての誠実な姿勢を示すことができます。

弁護士に相談すべきタイミングとは

すべてのクレームについて弁護士に相談する必要はありませんが、早期に専門家の助言を得ることで、問題の拡大を防げるケースも多くあります。どのようなタイミングで弁護士に相談すべきか、判断の目安をご紹介します。

こんなときは早めの相談を

以下のような状況に該当する場合は、早めに弁護士への相談を検討することをお勧めします。

  • 損害賠償を請求されている、またはその可能性がある場合:事故やケガが発生し、相手方から金銭的な補償を求められているケースでは、法的な責任の有無や妥当な賠償額の検討が必要です。
  • クレームが執拗で、業務に支障が出ている場合:正当な理由のない要求を繰り返される、長時間の面談を強要される、職員への人格攻撃があるなど、いわゆる「カスタマーハラスメント」に該当する可能性がある場合は、法的対応を検討すべきです。
  • 弁護士が代理人として出てきた場合:相手方が弁護士を立てて交渉してきた場合、こちらも専門家のサポートを受けることが望ましいといえます。
  • マスコミや行政への通報をほのめかされている場合:問題が公になると施設の信用に関わるため、慎重な対応が必要です。
  • 虐待の疑いをかけられている場合:虐待の事実がない場合でも、適切な対応を怠ると行政処分のリスクがあります。

顧問弁護士がいるメリット

問題が発生してから弁護士を探すよりも、日頃から顧問弁護士を確保しておくことには大きなメリットがあります。

顧問契約を結んでいれば、クレームが発生した初期段階で気軽に相談でき、迅速なアドバイスを受けることができます。また、施設の状況や契約内容を理解している弁護士であれば、より的確な助言が期待できるでしょう。

さらに、日常的な契約書のチェックや就業規則の整備、職員研修のサポートなど、予防法務の観点からも継続的な支援を受けることができます。トラブルを未然に防ぐ体制を整えることは、結果的にコストの削減にもつながります。

おわりに

介護施設におけるクレーム対応は、単に問題を収束させるだけでなく、利用者やご家族との信頼関係を維持・向上させる機会でもあります。真摯に向き合い、適切に対応することで、かえって関係が深まることもあるでしょう。

一方で、法的な問題に発展する可能性がある場合や、対応に迷う場合には、早めに専門家に相談することが重要です。問題が大きくなってからでは、選択肢が限られてしまうこともあります。

当事務所では、札幌を中心として、介護福祉業界に特化した顧問弁護士サービスを提供しています。利用しやすい安価なスタートアッププランもご用意しておりますので、これから法的観点からの予防体制を構築したいという方や、万が一に備えた相談先を確保しておきたいという方は、お気軽に当事務所までご相談ください。

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