第27回介護弁護士コラム 送迎中に交通事故が起きた場合の施設の責任

デイサービスや通所介護施設を運営していると、毎朝・夕の送迎は欠かせない業務のひとつです。スタッフが利用者様のご自宅まで車で迎えに行き、施設まで送り届ける。一見すると日常的なルーティン作業のように思えますが、「もしも送迎中に交通事故が起きたら?」と考えたとき、少し不安になる経営者・施設長の方も多いのではないでしょうか。

実際に、「先日ドライバーが軽い接触事故を起こしてしまったが、どう対応すればよかったのか」「乗車中に利用者様が怪我をしてしまったが、施設としての責任はどこまでなのか」といったご相談は少なくありません。送迎業務は介護サービスの一環として当然のように行われている一方で、事故が発生したときの法的責任については、意外と整理されていない場合も多いようです。

今回のコラムでは、送迎中に交通事故が発生した場合に施設が負う可能性のある法的責任の種類と、その備えとして実務上どのような対応が求められるかについて解説します。介護施設を運営するうえでの「万が一」に備えるヒントとして、ぜひ参考にしていただければ幸いです。

送迎中の事故で施設が問われる可能性のある責任とは

民事上の責任(損害賠償)

送迎中にドライバー(施設のスタッフ)が交通事故を起こした場合、まず問題になるのが民事上の損害賠償責任です。民事責任とは、被害を受けた方(利用者様や第三者など)に対して、金銭的な賠償を行う責任のことを指します。

この場面では、主に以下の二つの法的根拠が問題になることがあります。

  • 使用者責任(民法715条):雇用している従業員(ドライバー)が業務中に他人に損害を与えた場合、雇用主である施設(法人)も損害賠償責任を負う可能性があります。「自分が運転したわけではない」と思われるかもしれませんが、業務として送迎を行っている以上、施設側が責任を免れることは難しいと考えられています。
  • 運行供用者責任(自動車損害賠償保障法3条):施設が所有・管理する車両を業務のために運行させている場合、その車両の「運行によって」生じた損害についても、施設側が賠償責任を負う可能性があります。この責任は過失(ミス)の有無に関わらず問われやすいという特徴があり、被害者保護の観点から設けられた規定です。

つまり、ドライバー個人だけでなく、施設・法人としても賠償責任を負う可能性が高いという点を、まず押さえておく必要があります。

刑事上・行政上の責任

交通事故の態様によっては、ドライバーが刑事上の責任(過失運転致死傷罪など)を問われる可能性もあります。ドライバーが施設スタッフである場合、施設の管理体制や運転管理の状況が問われることも少なくありません。

また、介護保険事業者として都道府県や市区町村の指定を受けている施設では、事故発生時に行政への報告義務が生じます。重大事故の場合には、行政から実地指導や改善勧告を受けることもあり得ます。日ごろから事故報告の手順を整備しておくことが大切です。

「うちは大丈夫」が危ない 放置した場合のリスク

任意保険の内容が不十分なケース

送迎車両には自賠責保険(強制加入)が付いていても、任意保険の補償内容が十分でない場合があります。たとえば、対人賠償・対物賠償の補償額が低い、あるいは乗客(利用者様)への補償が含まれていないプランになっているケースも見受けられます。

自賠責保険は対人賠償に限定されており、補償額にも上限があります。重傷事故や死亡事故が発生した場合、自賠責だけでは到底カバーしきれない賠償額になることも十分考えられます。「保険に入っているから安心」と思っていたところ、いざというときに補償が足りなかったという事態は避けたいところです。

事故後の対応が遅れることによる信頼失墜

事故発生後の初動対応が適切でないと、利用者様やそのご家族からの信頼を大きく損なう可能性があります。「連絡が遅かった」「誠意ある対応をしてもらえなかった」といった不満は、苦情やSNSでの情報拡散、さらには行政への申し立てにつながることも少なくありません。

また、事故発生時の記録が不十分であったり、行政への報告が遅れたりすると、施設側の管理体制に問題があったと判断されやすくなる可能性があります。日ごろからの準備と、事故発生時の対応手順の明確化が、リスクを最小限に抑えるうえで非常に重要です。

施設として取り組むべき実務上の対応策

保険の見直しと運行管理体制の整備

まず優先して取り組んでいただきたいのが、送迎車両に適した保険への加入・見直しです。具体的には次のような点を確認されることをお勧めします。

  • 対人・対物賠償の補償額が十分か(対人は無制限が望ましいとされています)
  • 乗客(利用者様)への傷害補償が含まれているか
  • 介護施設の送迎用途として適切な契約内容になっているか
  • ドライバーの年齢・免許条件が実態と合っているか

あわせて、運行管理の体制整備も欠かせません。アルコールチェックの実施記録、運転日報の作成、ドライバーの健康状態の確認など、日々の管理を適切に行っておくことが、万が一の際に「施設として適切な管理をしていた」という証拠にもなります。

事故発生時の対応マニュアルの整備と周知

事故は「起きないようにする」ことが最優先ですが、それと同時に「起きてしまったときにどう動くか」を事前に決めておくことも非常に重要です。以下のような点を盛り込んだ事故対応マニュアルを整備しておくことが求められます。

  • 事故発生直後にドライバーがとるべき行動(警察・救急への連絡、利用者様の安全確認など)
  • 施設内への第一報の連絡ルートと担当者
  • 利用者様のご家族への連絡手順と説明内容
  • 行政(保険者)への事故報告の手順と期限
  • 相手方との示談・交渉を行う場合の注意点(基本的には保険会社・弁護士に任せることが望ましいです)

マニュアルを作成するだけでなく、定期的にスタッフへの周知・研修を行い、「いざというとき動ける」状態にしておくことが大切です。また、相手方との示談交渉は、施設スタッフが単独で行うことは避け、保険会社や弁護士に相談しながら進めることが強く望まれます。感情的になりやすい場面での不用意な発言や約束が、後の法的トラブルを招くことも少なくないためです。

おわりに

送迎業務は介護施設にとって欠かせないサービスである一方、交通事故というリスクと常に隣り合わせでもあります。「今まで事故がなかったから大丈夫」という経験則に頼るのではなく、万が一に備えた保険の整備・運行管理体制の構築・事故対応マニュアルの策定という三つの柱を日ごろから整えておくことが、施設を守るうえで非常に重要です。

また、実際に事故が起きてしまった場合には、早期に弁護士へ相談することで、法的リスクを最小限に抑えられる可能性が高まります。「何から相談すればいいかわからない」という段階でも、気軽にご連絡いただければと思います。

当事務所では、札幌を中心として、介護福祉業界に特化した顧問弁護士サービスを提供しています。利用しやすい安価なスタートアッププランもご用意しておりますので、これから法的観点からの予防体制を構築したいという方や、万が一に備えた相談先を確保しておきたいという方は、お気軽に当事務所までご相談ください。

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